プール設置は「届け出」が必要なケースがある
プールを設置する際は、水質や安全管理のための法律や自治体条例など、さまざまな規制を考慮する必要があります。特に、不特定多数が利用できる業務用のプールでは、公衆衛生を守るために厳しい基準が設けられることが一般的です。
一方で、個人住宅の敷地内で家族だけが使うようなプールであれば、いわゆる「遊泳用プール」に該当しにくい場合が多く、保健所への届け出が不要となることがあります。ただし、届け出不要のケースでも、幼い子どもの転落防止や管理体制の整備など、安全面への配慮は重要です。プールの規模や用途によって法的な扱いが異なるため、規定の確認を怠るとトラブルにつながりかねません。
プール設置前に知っておくべき法的手続き
遊泳用プールに該当するかの判断
プールが「遊泳用プール」に分類されるかどうかが、法規制の出発点です。不特定多数が利用することや、プールの水量が50~100立方メートル以上であるかどうかが主な目安になります。ホテルやスポーツジムなどは利用者が広く想定されるため、ほとんどの場合、遊泳用プールとして扱われます。
なお、学校に設置されたプールについては、厚生労働省の定める遊泳用プールの枠外とされることが多く、文部科学省が示す別の衛生基準に従う場合が多いです。個人宅のように利用範囲が限られている場合は、規定外となり届け出の対象から外れることがありますが、安全配慮を怠ってよいわけではありません。
保健所への設置届出が必要なケース
遊泳用プールに分類された施設を新設・改修するときは、各自治体の保健所や担当部署へ図面や設備仕様などを添付した設置届を提出する必要があります。一般的には、プールの供用開始予定日の30日前までなど、提出期限を定めている自治体が多いです。さらに、プールを廃止したり休止したりする際にも、変更の届出を求める地域が少なくありません。
また、地域によっては独自の「プール取締条例」や「プール指導要綱」を定めており、求められる設備構造や監視体制などの基準が国の基準より厳しくなることもあります。こうした差異を踏まえて、施工に取りかかる前には必ず管轄保健所で事前確認を行うことが重要です。
法令が定める3つの基準と施工時の注意点
水質基準(厚生労働省通知ベース)
遊泳用プールの衛生管理では、水質基準の遵守が大きなポイントです。主な項目には、pH値、濁度、細菌数、遊離残留塩素濃度、大腸菌の有無などがあり、基準を下回る(または上回る)と利用者の健康被害が懸念されるため、定期的な検査や測定が求められます。
たとえば、遊離残留塩素は0.4mg/L以上を保つ必要があり、使用状況によっては薬剤の追加投入を検討しなければならない場合があります。測定にはDPD法などの標準的な方法を使います。下記に一例を示します。
水質検査はプールの使用頻度や季節によって変動があるため、必要に応じて追加検査を実施すると安心です。
施設基準
施設面では、プールそのものの構造に加えて、給水・排水や循環・消毒設備、更衣室や便所の設計が特に注目されます。コンクリートなど水が漏れにくい材質を使い、オーバーフロー溝を備えることが推奨されるほか、安全のため排水口は吸い込み防止構造や二重蓋を採用するなど、事故を防ぐ工夫が不可欠です。
付帯設備としては、シャワー室やロッカー、救護室が整っているか、プールサイドが滑りにくい仕様になっているかなども大切な確認事項です。最近は、利用者にやさしいバリアフリー対応や省エネルギー設計を求める自治体も増えています。
維持管理基準
プールを開設したあとは、衛生と安全を保つための継続的な維持管理が義務付けられます。具体的には、管理責任者と衛生管理者の選任、プール水の定期清掃や消毒、定期的な換気や設備点検などが代表的な内容です。
さらに、実際の運用状況を記録する「プール管理日誌」の作成と保管(3年以上など)が必要であり、万が一の事故や指導検査の際には、日誌が管理の適正さを示す証拠となります。
プールの安全確保と運営面の法的留意点
プールの安全標準指針(文科省・国交省)
文部科学省と国土交通省がまとめている安全指針では、利用者の事故防止策が示されています。代表的なのは、排水口などでの吸い込み事故を防止するための二重構造、プール底や壁のわかりやすい水深表示、滑らない床材の選定、監視員の適切な配置などです。
定期的な設備点検や利用者へのルール周知も大切とされており、プールの運用管理者はいつでもすぐに救助できる器具やAEDなどを準備しておくことが望ましいでしょう。
プール監視業務と警備業法
大勢が利用するプールでは、事故を未然に防ぐために監視員を配置しますが、監視業務を有償で専門会社に委託する場合は警備業法の規定に注意が必要です。警察庁は「プールの常時監視や救助などの行為を報酬付きで受託するなら警備業の認定が要る」という見解を示しています。
一方、自社スタッフを雇用して行う監視や、ボランティアによる無償協力であれば警備業法の対象外となります。施工後の運営方法によって法的手続きが変わるため、初期の段階でどう運営するかを決めておくとスムーズです。
自治体ごとの条例や要綱の違いに注意
都道府県・市区町村ごとの届出・基準差異
プールの規制内容は、国の通知や指針に基づくものが基本ですが、東京都の「プール等取締条例」や、さいたま市・千葉市などの独自要綱など、地域で詳細が異なります。
たとえば、東京都では容量50立方メートル以上のプールは厳格な許可制になっており、さらに小規模プールでも管理体制を示す書類の提出を求める場合もあります。水質検査の頻度や報告書の提出方法なども地域差があるため、事前に対象地域のルールを確認することが不可欠です。
現地の管轄保健所への事前確認が不可欠
こうした地域差を踏まえ、最終的な手続きは必ず現地の管轄保健所で相談しながら進めることが重要です。保健所は、プール設置の手続きや衛生管理上の相談を受け付けるだけでなく、独自の様式や必要資料を提示してくれます。建設工事中や完成直後に慌てることのないよう、早めに情報収集を行いましょう。
施工店が対応すべき実務フロー
設計・施工前に行うべき法規制チェックリスト
事前準備としては、「プールが遊泳用にあたるか」「保健所への届け出や許可が必要か」「施設と設備が国や自治体の基準を満たしているか」など、確認する項目が多岐にわたります。下記のように一覧化して、抜け漏れを防ぐのが効果的です。
- プールの規模や用途の確定
- 管轄保健所でのヒアリングと条例・要綱の入手
- 設計図面・構造図・設備図などの整備と提出資料の準備
- 施工計画書における管理体制の明記
お客様説明時に使える「チェック項目シート」
完成後の維持管理は施主の責任となる部分が大きいため、プールの使用方法や定期清掃・水質検査のやり方、安全対策の必要性などをまとめた「チェック項目シート」を提供すると役立ちます。項目シートには「毎日の残留塩素測定」「月1回以上の細菌検査」「3年分の管理日誌保管」などを記載しておくと、施主が運用時に迷わずに済みます。
行政書士や専門業者との連携も有効
届け出書類の作成や、警備業法に対応した監視サービスの手配、水質管理機器の維持メンテナンスなど、専門知識が必要な場面は少なくありません。行政手続きの専門家である行政書士を活用したり、水質管理や安全監視を得意とする業者と連携を図ることで、施主に安心してもらえる対応ができるでしょう。
まとめ:安全・法令順守で信頼される施工を
プールの設置は、利用者の健康と安全を守るために多面的な規制が設けられています。住宅用と業務用で扱いが異なるうえに、自治体ごとに要求される届出や基準が変わるので、施工店としては早い段階から保健所の担当者に確認し、書類や設計を整えることが不可欠です。
水質基準や施設基準、維持管理基準を踏まえた計画を立て、安全を維持するための運用マニュアルや管理日誌の作成などを施主にきちんと案内しておくと、完成後もトラブルを減らしやすくなります。法令順守と適切なアフターフォローを通じて、利用者が安心して楽しめるプールづくりを進めましょう。
情報参照元
- 厚生労働省・遊泳用プールの衛生基準について (https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei01/02.html)
- 文部科学省・プールにおける安全管理について (https://www.mext.go.jp/sports/content/20210125-stiiki-000032215_06.pdf)
- 国土交通省・「プールの安全標準指針」の策定について (https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/04/040329_.html)
「庭にプールを作りたい」「ホテルやヴィラにプールを建設したい」「プール付きの戸建てを建てたい」
けれど、プールをつくるにはどのくらい費用がかかるかわからない方が多いのではないでしょうか。そこで、当メディアでは、 世界各国で50,000台以上のプール設置実績を誇る「マジラインプール」の日本での販売元「プールカンパニー」に取材協力を依頼し、プール施工のプロにプールの施工費、維持管理について解説して頂きました。業者選びのポイントも紹介しているので、ぜひ参考にご覧ください。(※2025年2月1日調査時点)